日 時:2004年7月16日(金)12:30~13:30
会 場:経団連会館9階クリスタル・ルーム
―第20回東京キワニスクラブ青少年教育賞贈呈式―
受賞団体: 国際基督教大学点訳サークル
ミドルトン・セラさん、顧問 吉野輝雄教授
授賞式
授賞者
○公文青少年教育委員長より選考経過報告
青少年教育賞は青少年の健全育成のために活躍している団体または個人を表彰するものです。今回は多くの会員から多数の候補者をご推薦いただき、数回委員会を開催し、ICU(国際基督教大学)の点訳サークルを候補者として絞り込みました。
点訳はいろいろなところでやっていることですが、推薦者の一瀬会員と一緒にICUを訪問したときは、どういうところが特色かを伺うことが中心でした。
サークルが出来たのは1977年です。点訳は地味な仕事ですが、主たる仕事はICUに入学した学生に教科書や授業の資料の点訳です。最近は音声でできます。特に意義を感じたことは、地味な仕事が単なる助け合いではなく、学校として障害を持つ人が他の学生と同じような学生生活を送ることができるような活動につながっていることです。
ICUも学校として公式に視覚障害の人に受験資格を与え、現在3人の視覚障害者が学生生活を送っています。一生懸命に勉強しようという視覚障害の人達が普通の学生と同じように勉強していることは社会的にも意味のあることだと思います。学生同士の助け合いばかりでなく、対外的にもいろいろな活動もされています。例えば、視覚障害の若い母親h子供に絵本を読んであげられません。そこで絵本の点訳をして、子供に読んであげられるようにしています。
地道な活動ですが、社会的な意義があると思います。キワニスとしてもバックアップするのに値すると思いました。今日は点訳サークルを指導されている吉野先生と代表の堀内さんは来られませんが、サークルのメンバーであるミドルトン・セラさんのお二人が来られています。
○国際基督教大学点訳サークル顧問 吉野輝雄教授
今回思いがけず青少年教育賞を受賞するというお知らせを受けて非常にびっくりすると同時に光栄に思い、喜んでおります。顧問として嬉しいのですが、この喜びは27年の歴史を持つサークルの学生達のものであると受け止めております。元ICU教授の一瀬先生のご推薦と公文委員長がわざわざICUにお越しいただき、詳細にお調べいただいた上でご推薦いただき、ありがとうございました。今日は私からICUに在学した盲学生を何人か紹介しながら、点訳サークルの歩みと特徴についてお話して、セラさんから最近の活動についてお話いただきたいと思います。
点訳サークルは1977年に結成され、今までに7人の全盲の学生と3人の弱視の学生が在学しました。その中の3人が今も在学中です。それぞれが実に個性豊かで行動的です。視覚障害者も部員の一人であるということが今日お話したいことの中核です。部員であり、サークルの学生と一緒に活動している中で、いろいろな輪ができ、助け合う関係を越えて楽しく深い人間関係が築かれているということです。その力が大学をも変えて来ました。サークルが結成される1年前に点字を勉強する会ができました。当時はまだICUは盲人に門戸を開いていませんでしたが、勉強してICUが門戸を開くように声を上げ始めました。それに共鳴した教員の有志も動き始めて、ついに行政を動かし、1977年に点字による入試が行われました。その結果、一人が語学科に入学し、点訳サークルも正式なクラブとなりました。その学生は非常に優秀な成績で卒業し、周囲の学生のみならず、大学全体、教員、一般職員、行政部に大きなインパクトを与えました。それは目の見える人の眼を開かせたと言うことができます。具体的には盲学生が学問をする能力は一般学生と何ら変わらないことを証明したということです。その4年間の在学記録が有志によってまとめられ、その後、盲学生が勉強する上でのガイドブックになっています。彼女の在学中はICUでは永続的に受け入れをしたということではなく、試行期間という意味づけをしていましたが、4年間で見事にその課題をクリアして、当時としては珍しい明文化された受け入れ方針ができ、現在に至っています。その間の点訳サークルの存在と貢献が非常に大きく、1979年にジョン・ミルトン・ソサエティから国際賞を受賞しました。
2人目は1981年に理学科に入学して、物理学を専攻しました。大学は実験を含む科目を教えるという日本で初めての体験をしました。数式や物理の記号などをたくさん含む教科書の点訳が課題でしたが、サークルが大活躍しました。彼は宇宙開発事業団で働いています。他の大学にその後自然科学、数学を専攻したいという盲学生が出願しますが、そのときには必ずと言ってよいほどICUに問い合わせがあり、2冊にまとめられたそのときの在学記録を送ることになっています。3人目は1984年に入学した女子学生で現在トミーというおもちゃの会社で働いています。彼女は目や耳の不自由な子供達が楽しく、安全に共に遊べる玩具、共有玩具の開発に携わっています。その面での世界基準を定める委員の日本代表となっています。4人目は1989年に社会科学科に入学した男子学生です。彼の時代では点訳はこつこつ点筆でするのではなく、コンピュータが利用されるようになりました。サークルにもパソコンが置かれ、通信ネットがつくられお互いにおしゃべりや議論、連絡などがなされていました。そこで活躍したのがこの男子学生自身でした。サークルの学生も協力して、視覚障害者が大学で勉強する上での環境づくりに使命を感じて、その仕事を現在も活発に続けています。ICUにもコンピュータやソフトが揃っていますが、それらが視覚障害者が社会との情報障壁を除くための手段というように考えて活躍しています。ICUだけではなく盲人の社会的自立を支えるための整備に関わっていると言えると思います。他の視覚障害の学生について時間の関係で詳しくお話できませんが、一人はドイツで勉強中、一人はタイに行きJAICAで働いているというように非常に国際的に行動的です。
入試に関してもサークルは関わっています。ICUの入試の問題は文章量が多く、一晩泊りがけでやらなければならないほどの量です。入試点訳チームが結成されますが、それに何人かのサークルの学生が加わります。こういう社会的な責任を担う仕事も果たしています。時には他の大学の入試点訳に協力を依頼されることもあります。こんな風に大学の中での活動だけではなく、視覚障害者自身、サークルの学生達が外にも目を向けて活動しているということを私から紹介させていただきました。今回このような光栄ある賞を受けることができましたことに心から感謝申しあげます。
○ミドルトン・セラさんから受賞のことば
本日は素晴らしい賞をいただいて大変嬉しく思います。ありがとうございます。私は国際基督教大学教養学部国際関係学科に在籍しているミドルトンと申します。点訳サークル代表の堀内はタイにボランティア活動に行っていて、今日は来られませんので、私が代わりに参りました。思いがけなくこのような場でお話させていただくことになり緊張しています。スピーチについてキワニスクラブから「日頃の苦労について」とありましたが、失礼かと思いますが、内容を変更して日ごろ私達がどんなに楽しく活動しているかをお話したいと思います。 1977年に点訳サークルが設立され、私は2年生であまり詳しくは知りませんが、現在2人の全盲の学生と1人の弱視の学生がいます。私がサークルに参加するきっかけは、代表で全盲の堀内と英語の授業で一緒になり、友人になりました。同じクラスの友人も点訳サークルに入っていたので、私も入部しました。現在の活動は1週間に1度お昼休みにミーティングをしています。これは皆と一緒にお昼を食べながら、新発売のお菓子の話題などを話たりしています。視覚障害の学生の補助としては教科書、授業の資料をスキャニングという形で点訳をしています。また朗読という方法をとることもあります。目が見えないので、ぱっと見て内容を把握することができないので、ざっと読んで内容を教えることもあります。他の大学の点訳サークルとの交流会にも参加しています。大学入試の点訳にも関わっています。現在メインの活動としては学内の施設の案内表示を点字でつくっています。案内表示は教室の番号、前のドアか後ろのドアかなどをわかりやすく表示しています。
私は直接知りませんが、過去の活動として絵本づくりをしていました。1ページ1行くらいの内容を点字にして、お母さんが上からなぞって読み聞かせられるようにしています。このような本を学校の文化祭に来た人につくってもらうと、喜ばれました。また、視覚障害者が一人でも注文できるように、学校周辺のお店のメニューの点訳のシールを貼ったり、点字のメニューをつくって書き込みをして、お店に寄付するという活動もしています。点字の図書館の見学、学生の母校であるつくば付属の盲学校の見学などもしました。昨年の文化祭では名刺に点字をつけて好評でした。今年はグリーティングカードをつくろうとの提案が出ており、楽しみでにしております。今日ここでお話するに当たり部員からぜひとも話してほしいと言われたことは、このサークルがどれほどよいコミュニティであるかということです。皆すごく楽しんで活動しています。視覚障害者と健常者という出会いではなく、一人の人間同士として、友人同士として関わりあっていることがすごく楽しいことです。代表の堀内はタイにボランティアに行っており、もう一人の全盲の学生はドイツに留学しています。とてもアクティブな学生で、私も刺激されます。視覚障害者を助けるというのではなく、私の方が学ばせてもらっています。まとまりのない話になってしまいましたが、本日はありがとうございました。